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スウェーデンコラム「瑞筆」

第7回 マリアちゃん/深井せつ子さん

「ここから、車で一時間くらいのところに友人がいるんだ」と夫がいいます。
「確か、三年前、家族が出来たと手紙をもらった。会いたいな」

私は、すぐに賛成しました。友人に会うということはもちろんのこと、スウェーデンの家庭を訪ねてみたかったからです。連絡すると、OKとのこと。夏休暇だから、すぐ来いと。
「確か、子供は三歳くらいになるはずだから、娘と同じだね」といいながら、私たちは青空のもとを出発しました。

約一時間走って、k氏の家へ到着。彼は庭の芝生にホースで水まきしていました。広い芝生と手入れの行き届いた花壇。クリーム色の木造家屋は、かなり頑丈なつくりです。笑顔で私たちを出迎えた彼は、「まあまあ、玄関からどうぞ」と、案内しました。

家の奥に声をかけると、奥さんが見え、それからドッドッという足音と共に子供が転がるように出てきました。その子は、茶褐色の肌の女の子でした。

私たち4人は、一瞬声を失い、その場で棒立ちになってしまいました。「マリアだよ」というk氏の声でハッと我に返るまで。

マリアちゃんは養女だったのです。ものおじしない元気な女の子で、娘の手をひくと、自分の部屋に案内しました。私たちも全員、その後に。小さなテーブルセット、花柄の愛らしいベッドカバー、ぬいぐるみ、トランポリン…。我が娘はあっという間に仲良しになり、幼児の特権でスウェーデン語と日本語でしゃべりあって、キャッキャッとはしゃぎだしました。

私たち大人は「ハァー」という小さな安堵の声をもらし、ようやく落ち着きをとりもどしました。庭でコーヒーを、と夫妻に薦められ、風の吹く気持ちよいテーブルに着くと、まず、さっきの非礼を詫びました。
よく考えれば、北欧では養子縁組らしい家族とすれ違うことはめずらしくはないのです。

彼ら夫妻も長い間、子供に恵まれず、養子を希望していて、ようやく待望の養子縁組ができたとのこと。生後五ヶ月でインドのボンベイからやってきたのだということです。ただ、実際に、しかも、いきなり出くわすと、やはり、衝撃は強いのではないでしょうか。理性が一瞬追いつかないというか。

マリアちゃんがどういう境遇のところで生まれたのかはわかりません。でも、インドの西海岸都市・ボンベイに行った時、私は、ホテルを一歩でも出ると焦げてしまいそうな灼熱の太陽と、じっととりまとわりつく湿気で倒れんばかりでした。生活環境が劣悪なところの幼児なら、いつ命が失われても不思議ではない。

だから、ここスウェーデンで育つマリアちゃんは幸せにきまっているのです。生命と教育が保障されているし、それにたっぷりと愛情をそそがれている。

でも、私の胸の中で、どこか、合点のいかないこの感情はなんなんだろう。例えば、マリアちゃんが、年頃になった時、自分の国や民族をどう思うのだろうか、とか。

そういう複雑な感情で揺れ動いていた私の心を遮るかのように、k氏がポツンとつぶやきました。
「いま、すごく、幸せなんだよ。子供を育てることが、こんなにも幸せなことだとはおもってもいなかった。マリアはぼくたちにとって宝物なんだ」

家族ってなんだろう。imageこうして、血は繋がらなくても、互いに愛し合い、求め合っている親子。逆に真の親子でも、仲が悪く、葛藤した子供時代を送って、一生悩みを抱えて生きる人…。

私にとって未消化な部分はあるものの、K氏夫妻にとっては、本当に「家族」が出来たことがよくわかりました。そして、そこには、普通、ついうっかり失ってしまう大切なものが、キチンとあるのだ、ということが感じられました。

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Columnist Profile
深井せつ子さん
神奈川県出身。画家。
北欧各地の清涼な風景に強く惹かれ、北欧行を重ねている。個展や絵本をはじめとする著書も北欧をテーマとしたものが中心。近著に「デンマーク四季暦」(東京書籍)、「小さな姫の勇気の教え」(KKベストセラーズ)、「北欧ヒーリング紀行・森の贈り物」(大和出版)。スウェーデンハウス株式会社のカレンダーは、隔年で制作担当。日本北欧友の会会員、日本スウェーデン文学協会会員。


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