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スウェーデンコラム「瑞筆」

第9回 おおきな古時計/深井せつ子さん

『おおきな、のっぽの古時計、おじいさんの時計…』という歌が、リメイクされて街に流れています。この歌を聴くと、私はスウェーデンの田舎で出会った時計職人を思い出します。

スウェーデンのダ−ラナ地方、ヒュスビリンゲンという地域を旅した時でした。まさに「森と湖の国」に相応しい清涼な風景が続くこの地域で、時計づくりの工房を見学させていただくことになったのです。

工房は、この地方独特の赤い塗料で塗られた木造家屋で、小さなものでした。真っ白のワイシャツにサスペンダーベルトをした、物静かな老人が玄関に迎えてくれました。

中に入ると、作業台には、数かぎりないくらいの工具がキチンと並べてありました。なにしろ、時計制作は細かい部分は拡大鏡を使って制作するくらいですから、工具はどれも繊細な作りです。

壁には、床から天井まで届くような背の高い木製時計がずらりと並んでいます。そのボディは、ダ−ラナ特有の民族模様が描かれていたり、木の素地を生かしたものであったり、昔の上流家庭のサロンに置かれていたような金細工も入った豪華なものであったり。どれもが年代もので、色彩がすこしばかり褪せた感じが、なんとも美しい。ひとつだけ、製作中の新しい時計も並んでいました。

この時計職人さんは、時計の文字盤、機械部分のみを制作する人で、背の高い本体は、他の職人が作ったものだそうです。

機械部分は、針も文字も、ゼンマイも何もかも手作りで、ていねいにコンコンと叩いて制作されていきます。

購入された家庭で、何代にも渡って受け継がれていく時計は、こうして時間をかけて製作されていくわけです

聞けば、父親もその父親も、時計の機械職人だったとのこと。 私は、これまで博物館などで古い時計を見たことはありましたが、実際動いているのを見たのは、初めてだったかもしれません。

「全部、音が違いますよ」

そういわれて、私は、見上げるように大きい時計のひとつひとつに身を寄せて音を聞いてみました。確かに、微妙に音色が異なります。時間を刻む早さは同じなのに。

おおきな時計に身体を預けて耳を済ましていると、コチコチコチという規則正しい音は、なぜか優しく、心が安らいでゆくのを感じます。昔、子供のころに聞いた時計の音なのか、それとも、よく言われる体内で聞いた母親の心臓の音なのか。こんな人の気配もない森の中に工房が、と思いましたが、時計作りにはこういう静かな場所が最適なのでしょう。

壁には、この職人さんの若い時代の仕事中の写真が飾られていました。imageずっとここでこうして、時計を作り続けている。確実に進む「時」を刻む機械を作る気持ちは、どういうものなのだろう。それは、聞きそびれてしまいましたが。

いまでも、あの工房にあった背の高い、優雅な姿をした時計たちを時々思い出します。

「おおきな、のっぽの古時計、おじいさんの時計…」

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Columnist Profile
深井せつ子さん
神奈川県出身。画家。
北欧各地の清涼な風景に強く惹かれ、北欧行を重ねている。個展や絵本をはじめとする著書も北欧をテーマとしたものが中心。近著に「デンマーク四季暦」(東京書籍)、「小さな姫の勇気の教え」(KKベストセラーズ)、「北欧ヒーリング紀行・森の贈り物」(大和出版)。スウェーデンハウス株式会社のカレンダーは、隔年で制作担当。日本北欧友の会会員、日本スウェーデン文学協会会員。


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