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スウェーデンコラム「瑞筆」

第5回 スウェーデンの手工芸/高津雅子さん

ここ数年、日本だけでなく世界的に北欧デザインがとても人気のようです。現代のデザインはもちろん、1950年代のミッドセンチュリーデザインも人気が復活して、グスタフスベリの陶器などは日本で頻繁に目にするほどになっています。なぜそんなに北欧デザインが人を惹きつけるのでしょうか?

多くのデザイン関係者が、自然からのインスピレーション、自然の素材をうまく取り入れていること、北欧の生活に根ざした手工芸の味わいが感じられることなどをあげています。

スウェーデンというと世界をリードする福祉国家、ボルボ・サーブなど自動車産業をはじめとする技術大国、持続可能な社会を目指す環境先進国・・・というイメージが強いと思いますが、19世紀終わり頃には、近代化と人口の都市集中とともに貧困と農民層の分解からアメリカへの大量移民がでていました。

ですからほんの100年前には一部の大都市以外では厳しい気候のなかで慎ましい生活をしていたようです。

家庭では寒さをしのぐための衣類、寝具などを手作りしていました。それは必要だからです。ウールで織った布を縮絨させたヴァードマルという厚いフェルトのような布がありますが、農夫が寒い外の労働に耐えるための上着を女性が織って縫ったのだそうです。民族音楽にも、若い娘が“わたしはあなたのためにヴァードマルを織るわ”という歌詞があります。そのような織りも、昼間の労働を終えてから夜の寝る時間を削って妻や娘が作ったのです。愛する家族のために少しでも暖かく、美しく。

そのように家でする手仕事は「ヘムスロイド」と呼ばれ、スウェーデンの全ての地方にヘムスロイド協会ができ、古いテクニックや技法が伝えられ、また今は現代に適合する新しい作品も作られています。

わたしがヘムスロイドに興味を持ったのは、フレミッシュ織りという絵織りがきっかけでした。日本で本を見ながら自己流の絵織りを始めていましたが、初めてストックホルムのヘムスロイドの店に立ち寄った時になんとも素敵な絵織りを見ました。すずめのような鳥のモチーフで、日本のすずめよりまるくてかわいらしい姿でした。「これをいただけますか?」というと手渡されたのはフレミッシュ織りの材料のキット。「あら、自分で織るんですか!それなら無理だわ・・」。こんな細かくて難しそうな織りはできるはずがないわ・・そう思って購入を諦めてしまったのです。その後、友人のおかげでスウェーデンで織りを学んだ先生が私の自宅の近くにいらっしゃることがわかり、現在でもフレミッシュ織りや機織りを習っています。あの時にキットを買って置けばよかったのに、その後いくら探しても二度と出会うことができません。スウェーデンでも現在は織りをする人は少なくなっているので、どんどんデザインが消えているのです。

材料も同様で、質の良いウール、色のきれいな麻の糸などはなかなか買えなくなっています。田舎のヘムスロイド店の在庫品を探すと掘り出し物に出会うかもしれない・・と言われるくらいです。

スウェーデンの手工芸の特徴はこだわりのある素材選び、自然をモチーフにした模様やフォルム、美しい色使いなどがあげられます。麻・ウール・綿の織物、白樺などの木工品・カゴ、鋳鉄の製品、編み物、刺繍、プリント布など、ヘムスロイドの店で見るものはレベルの高い作品ばかりで値段も安くありません。

けれどもヘムスロイドには家でお母さんやおばあちゃんの手で作られたような暖かさがあります。

わたしが好きな織りにトラースマッタ(裂き織りのマット)があります。言葉の通り、布を1cmくらいの幅に裂いて横糸として織り込みます。もともと着古し・使い古しの布を無駄にしないで再利用する倹約の織りです。スウェーデンでは家の中によくトラースマッタが敷いてあります。特に木でできた夏のコテージには良く似合います。マットひとつで、家の風景が暖かく柔らかくなる気がします。

日本でも南部裂き織りなど、木綿布が手に入るようになってから裂き織が行われていました。南部裂き織では大きなものだと布団の側、丹前、コタツ掛け、あとは身の回りの小物など実用的に使われてきたようです。

もともとはどこの家でも行われていた手工芸ですが、現代スウェーデンの忙しい生活の中では夜も寝ないで手仕事に勤しむ必要はなく実際にそんな余裕もありません。それで若い人たちは織りや編み物、木工に親しむ機会がとても少なくなっているそうです。

ヘムスロイド協会では伝統手工芸の伝承のために講習会を主催しています。

2007年の夏に、ヘムスロイド協会と繋がりのある手工芸学校で織りの講習に参加しました。

一年・二年のコースのほかに、夏には短期のコースがたくさん開講され、私が二週間の織りコースに参加した際には、かご編み、木工、刺繍、染め、フェルト、ワイアーなどの一週間コースも行われていました。

昔は家庭に織機を持っていた人が多かったのですが、いまではスペースがない、手間がかかる、時間がないなどの理由から織りに携わる人は少ないそうです。この講習は広いアトリエで大きな機(はた)で朝から晩まで織りに熱中することができる、とても貴重な機会でした。ここに来るのはほとんどがスウェーデン人ですが、私以外に期間中に日本人がなんと7人も参加していました。

ここ2年の間に日本の雑誌で何度か紹介されたからだと思いますが、北欧デザインへの関心が、自分の手で北欧の手工芸を楽しみたいというところまで来ていることを目の当たりにして、今回の北欧ブームはなかなか根強いものになるだろうと感じました。

次回はインテリアに取り入れるスウェーデンのデザインを紹介します

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Columnist Profile
高津雅子さん
北海道出身。1957年生まれ。 北海道大学教育学部で発達心理学を専攻。エトワール海渡(株)勤務後結婚。
1993年から横浜朝日カルチャーでスウェーデン語講座を受講する。
1995年 SI(Svenska Institutet):スウェーデン文化交流協会の外国人向け夏期スウェーデン語講座初級受講。
2005年 同 夏期スウェーデン語講座中・上級を受講。
2006年〜(財)スウェーデン交流センター スウェーデン語講座講師。 スウェーデンの手工芸をきっかけに横浜、大阪、札幌でスウェーデン語を学習。スウェーデンの絵織り・フレミッシュ織りやマット織りを修行中。


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