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スウェーデンコラム「瑞筆」

第3回 雪景色/本田倫子さん

冬の間、マイナス5度〜マイナス15度くらいだと「今日は良い天気で」と言う人が多い。雪が積もっていることが前提だが、景色や空気が美しいからだそうだ。
「0度前後は湿った雪と泥が混ざり見た目も汚いし歩きにくい。かといってマイナス15度を下回ると冷気で鼻の奥が痛い」のだとか。
九州育ちの私には新鮮な発想だ。
日本から家族が訪ねてきた時はマイナス15度。
「良い天気でよかったじゃない」と学校スタッフ。ええ、暖房が壊れてなかったら。あの時はアンラッキーだった。日本から着いたその日に壊れたのだ。室内は普段暖かいので薄い布団しかなく、ブルブル震える夜を過ごすハメになったのだ。

私は美しい雪景色というとヴィーク※1を思い出す。
ある冬の日に学校行事でヴィークに行ったのだが、その時みた景色が素晴らしかった。
学校行事とは、ヴィークにある国民高等学校(Folkhögskola)の音楽課の学生と演奏する交流イベント。
「ところでヴィークのこと知ってる?」と先生。説明によれば、ヴィークはウプサラ郊外南西部に位置し、湖畔にお城がある。この建物は14世紀に防壁と共に要塞として建てられ、現在は防壁はないがお城として残っているとのこと。
因みにその時に聞いた話。ヴィークとウプサラは湖と川でつながっている。その先生はヴィーク付近から約27km離れたウプサラまでスケートで滑って行ったそうだ。
「その時は追い風がきつくて。ずっとブレーキをかけたハの字で滑って大変だったよ」と言う。
クラスメート達を見ると神妙な顔でうなずいている。スケートは誰の手も借りずに立つのが精一杯という私には想像もつかない。
その先生は友達に「ストックホルムまで滑ろう!」と誘われた時は距離が長いためさすがに断ったそうだ。
何十キロと滑る長距離スケートは追い風の時は危険らしい。氷の薄いところ厚いところがあるためスピードがつきすぎると割れてしまい、川に近い病院は次々と氷の破片で負傷した人が運び込まれるのだとか。
何十キロも走るというと、90キロ強をスキーで走るヴァーサ・ロペット(Vasaloppet)を思い出す。スウェーデン建国の英雄グスタフ・ヴァーサがスキー板で実際にその距離を走ったという逸話は私のお気に入りでもある。つくづくスウェーデンはスケールが壮大だと感心してしまう。

さて話をヴィークに戻して、当日朝、スウェーデンで初めてのお城訪問とワクワクしてバスに乗り込んだ。郊外へ向かうバスはすぐに街を抜け一面の雪景色にかわった。雪の中を馬がゆっくり歩く姿が見える。遠くには野うさぎが雪で真っ白な丘をぴょんぴょん飛び跳ねている。30分ほどで到着した。
バス停の目の前にお城がある。さあ!ここだ!とお城を見上げていると、後ろから「こっちよ!何しているの」と友人に袖を引っ張られた。
「お城はあれでしょ?」と言う私に、「学校はあっちよ」と友人。
私はすっかり勘違いしていたらしい。ヴィーク城が学校で、そのお城でイベントをやるのだと思いこんでいたのだ。学校はお城の向かい側にあった。ガッカリ。
仕方なくお城を背にとぼとぼと学校へ向かった。

朝

学校の中に入るとロビーにはグランドピアノがあり、ちょうど休憩中だったようで誰かがジャズを弾いていた。やはり学校が違うと雰囲気が違う。
ここの音楽課の専門はロックやジャズだ。私たちは伝統音楽しかやらない。今日のイベントでは、小グループにわかれ、私たちが用意した曲と彼らが用意した曲、その持ち寄った2曲を独自のアレンジで一緒に演奏する。

私たちのグループは、こちらが3人。相手側はドラム、エレキギター、ベースにボーカル。
相手側が用意した曲は、オーサ・ジンデル(Åsa Jinder)の「Av längtan till dig」というポップスだった。有名なヒット曲らしい。早速どういうアレンジにするか打ち合わせをした。最初はまだお互いちょっと固くなっていたが、楽器を鳴らし始めるとすぐに緊張は解けてしまった。弾くうちにアレンジが固まり軽快でかわいらしい曲になった。
対する私たちがこの日のために用意した曲は「ラップランドの王」を意味するラップクンゲンスポルスカ(Lappkungens polska)。ひんやりした雰囲気が漂う曲。友人の解釈によるとラップランド地方の王と言えば、山の王、つまり巨人トロールを連想するらしい。山の王がのっしのっしと歩く感じで重たいビートを利かせれば、ヘビーメタル風に出来そうだ。歌詞はないのでトゥララ〜♪と適当に歌ってもらう。早速アイデアを伝え演奏してみる。
静かなイントロで始まり、続いてドラムが激しくドンガラガッシャンバンバーン!そしてボーカルの熱く伸びやかな歌声。なかなか良いです。イメージ通り。
昼食後、グループごとに演奏を披露しイベント終了。ジャンルが違うと刺激的だ。どのグループも独創的な世界を繰り広げていた。

帰り道、凍ってツルツルした坂道を踏みしめバス停へ向かうと、目の前に夕陽を背に雪の中にたたずむヴィーク城が。
お城の窓という窓から夕陽がもれている。
別の日に再びここに来ても今日ほど美しい姿は見られないかもしれない。
お城には入れなかったけど、この光景がその日の思い出ともにずっとまぶたの奥に焼きついている。
しばし無言でお城に見入った。

夕暮れ
夕暮れ

※1・・・ヴィークの綴りは、古いスウェーデン語の”Wik”をよく見るが、バス停は現代風に”Vik”と綴る。

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Columnist Profile
本田倫子さん
福岡県出身、奈良県在住。ニッケルハルパ奏者。
スウェーデン各地の伝承音楽を多くの著名プレーヤーから学ぶ。 2006年、国立民族音楽センターでもあるEric Sahlström Institutet、ニッケルハルパ演奏課に留学。また、エスビョン・ホグマルク氏より楽器の伝統等について学ぶ。 Zornmärketにて、2007年、2008年参加。それぞれディプロム賞、銅メダルを獲得。 ソロやスウェーデンとノルウェイの音楽を演奏するデュオ、“fiss”にて活動。


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