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スウェーデンコラム「瑞筆」

第11回 ソーンメルケに挑戦 後編/本田倫子さん

朝5時半に起きると北へ向かう高速列車X2000に乗るためウプサラ駅へ向かった。前年、ソーン・バッジ(ソーンメルケ Zornmärket)でブロンズ・ディプロムをとったので、今回は銅メダルを目指し、一年かけて準備したのだ。この年の開催地はデルスボー。デルスボーは滞在中のウプサラから2~300km北にいった小さな町だ。

列車に乗り込むと、しばらくして車掌がチケットを確認しにやってきた。すると私のチケットを見るなり「これ、違う列車よ」と言う。ええ!?どうやら私は全くの正反対、ストックホルム行きの列車に乗ってしまったようだ。審査に遅れてしまうかもしれない!時間を変えてもらう妙案はないかと考えても、「ニッポンから来てワカリマセンでした」とか適当な言い訳しか浮かばない。ストックホルムでチケットを買いなおす他どうしようもなく、駅に着くと大急ぎで窓口に駆け込んだ。幸いすぐに発車するX2000に乗れば間に合うことが分かり、慌てて列車に飛び乗った。

2時間半列車に揺られ、次はバスに乗り換えて30分。降りたバス停から会場はさらに4kmある。バスを降りた時点で私の審査まで後1時間しかない。今回の会場は郊外のスパリゾートホテルで、電車を乗り継いで来る人のことなど考えていないような場所にある。草原の中をうねうねと続く道を見つめて4km歩こうか、一瞬迷った。だめだめ、歩くのは危険。辺りを見渡すと、バス停の先にガソリンスタンド、向かい側にスーパー。他は何もない。すると、ちょうど向かい側のスーパーにタクシーがとまり、乗客が降りている!このタクシーが最後の救いだ。慌てて駆け寄り、会場となっているホテルの名前を告げた。

12時半頃ホテルにようやく到着できたが、ホッとするのはまだ早い。審査の時間まで後50分。看板の矢印に従い2階へあがると、日本からメールでやりとりしていた事務局長のアンデシュの笑顔が待っていた。急いで手続きを済ませる。顔写真を撮り、住所や演奏する曲など確認される。どっと疲れが出た。本当は早めに来てランチの予定だったのだ。朝起きてから今まで飲まず食わずで指先に力も入らない。事情を説明し「ホテルに売店ある?」と聞くとレストランしかないと言う。時間もないしこのまま演奏するしかない。するとアンデシュが「僕ので良かったら、黒パンとトナカイの肉が入ったチーズがあるよ。」 と言うではないか。「好きなだけどうぞ!」 ありがたい。これで生き返る。パンの入った袋とチーズを握り締めるとリハーサル室に移動した。楽器の調整をし、パンをほおばり、弾いてみた。悪くない。

いよいよ本番前の控え室に呼ばれ、待機しながらストレッチで体をほぐす。気持ちが落ち着かず勧められた椅子には座る気がしない。朝から綱渡り状態で疲れもピークだ。すぐに「時間だよ」と呼ばれた。途端に体が強張る。

部屋に入ると、広い会議室のような殺風景なスペース。笑顔のない審査員。前回は「どこから来たの?何を弾きますか?」ニコニコ顔で緊張をほぐすような会話があったが、今年は違う。部屋に入ると、ただただ沈黙。私が自己紹介しても笑顔もなく無言。圧迫面接のようだ。違和感と緊張感から随分保守的に弾いてしまった。気分もイマイチ乗ってこない。審査員も無表情だ。一曲弾き終わると「次」とだけ言う。緊張したまま、なんとも気分の乗らない感じでワルツを弾いた。この重い雰囲気にのまれ、自分らしく弾けない。最後の曲は気をとりなおして弾かないともう後がない。最後の曲名を言い、なぜこの曲が好きなのかも説明した。目を閉じ、アドバイスをくれた友人たち顔、皆と弾いて楽しかった時の気持ちを思い出し、息を整えて弾きはじめた。一箇所指が滑ったがいつもの調子で演奏できた。通常は3曲でおしまいだ。だが、最初の演奏が固かったせいか「もう一曲」と言われた。それにしても言葉少ない人達だ。追加で演奏を求められる場合があるのは知っていたので、事前に準備はしていた。とにかくこの重苦しい空気をなんとかせねば!と、歌も披露することにした。ちょっと笑える酔っ払いの歌だ。「今から弾く曲には歌もあるんです。」と歌って見せると、最後のオチで意外にも寡黙な審査員達がガハハと大爆笑。よし!雰囲気が明るくなったところで自分のペースで一気に演奏した。終了する頃には汗をびっしょりかいていた。

審査結果は18時だが今回は待たずに移動しなくてはいけない。さらにそこから200kmほど離れたレトビックの友人宅を訪ねることになっているのだ。疲れで電車でぐったりしているうち、結果発表の時間を過ぎていることに気がついた。事務局のアンデシュに電話で聞いてみようか・・・。自信もないし聞くのが怖い。どうしよう。迷った挙句、腹をきめて電話した。すると電話に出たアンデシュが言った。
「おめでとう!銅メダルとれたよ!」
やった!その一言を聞いた途端、思わず電車の中でガッツポーズをした。

レトビックの友人宅に着くと、他にも大勢いてシリアン湖をみわたす庭で皆演奏していた。今日一日の緊張感から開放され気持ち良い。0時をまわっていたが、スウェーデンの夏の夜はまだまだ明るい。友人に「ちょっと来て」と庭の中央に呼ばれた。すると・・・突然シャンパンを取り出し、私にグラスを渡した。
「銅メダルおめでとう!」
栓をシュパっと抜き、注がれた。
そしてその場にいた皆が私を取り囲むと一斉に「Hurra!Hurra!Hurra!」(腹から出す掛け声)
乾杯!みんなありがとう!
たくさんの人に支えられたからもらえたメダルだ。独りの力では決してもらえなかったものだ。
次の目標は銀メダル。いつか再び挑戦するその時まで、スウェーデンで皆にもらった笑顔を胸に頑張りたい。

余談だが、前編でふれた銀メダルを逃した友人は、今回メダルを手にした。日本に戻ってから偶然インターネットの動画サイトで彼女を見つけたのだ(そこにメダルのことが書いてあった)。その動画を見て鳥肌がたった。演奏する彼女は美しく、自信にあふれ、音色は繊細で力強かった。あれだけの強い思いがあったから今の彼女があるのだ。聞こえないと分かっていても、何度も画面に向かって言わずにいれなかった。
おめでとう!

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Columnist Profile
本田倫子さん
福岡県出身、奈良県在住。ニッケルハルパ奏者。
スウェーデン各地の伝承音楽を多くの著名プレーヤーから学ぶ。 2006年、国立民族音楽センターでもあるEric Sahlström Institutet、ニッケルハルパ演奏課に留学。また、エスビョン・ホグマルク氏より楽器の伝統等について学ぶ。 Zornmärketにて、2007年、2008年参加。それぞれディプロム賞、銅メダルを獲得。 ソロやスウェーデンとノルウェイの音楽を演奏するデュオ、“fiss”にて活動。


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